
鉄と木をデザインする
HOUSE for LOCALでは、家を構成する素材や、その背景にある地域の仕事を訪ねています。
今回訪れたのは、神戸の灘、阪急電鉄の高架下に工房を構える二つのものづくりの現場。
鉄という素材の可能性を探り続ける「株式会社ヤマナカ産業」代表の山中博貴さんと、木を中心に家具や建具など幅広いものづくりを行う「Magical Furniture」をされている小寺昌樹さん。
どちらもHOUSE for LOCALメンバーの工務店が、それぞれ普段の家づくりで関わりのあるつくり手で、メンバーみんなで見に行こうということで、今回の素材探訪が実現しました。

株式会社ヤマナカ産業が手掛けるプロダクトブランド「aizara」
まずお話の中で印象的だったのは、鉄本来の素材をいかすという考え方だ。
黒皮鉄と呼ばれる、自然原理の中で発生する鉄の表面を黒皮と呼ばれる酸化皮膜が残った鋼材。一般的には塗装や加工によって均一な表情に整えられることも多いが、aizaraでは黒皮ならではの風合いを生かし、あえてそのまま用いる。

ギャラリーに展示されている黒皮鉄の経年の様子。この風合いが美しい。

ギャラリーには、シェルフや椅子、テーブル、ネームプレートなどが展示されている。

工房の中で日々試行錯誤しながらプロダクトを製作されている。
加工には手間がかかる一方で、独特の質感や経年変化は均質な工業製品にはない魅力となるそう。
家具は基本的にワックス仕上げ。鉄のフライパンを育てるようにじっくりと変化も楽しむ感覚。
「錆びる」と聞くと、劣化というイメージを持つかもしれない。しかし実際には、錆をコントロールすることで素材を守る考え方もあるそうだ。耐候性鋼として知られるコールテン鋼は、表面に形成される錆の層によって内部を保護する素材のひとつ。完成した瞬間が終わりではなく、時間とともに表情を変えながら育っていく。
黒皮鉄は加工しづらい素材でもあるそうだが、工房では試作品をつくり、改良を重ねながら形にしていくことができるという。小さく試しながらものづくりを進められることも、まちなかに工房を持つ強みなのだという。実際に家づくりの中で製作を依頼しているメンバーからも、鉄でこんな風にデザインのやり取りができる工房があるのは心強いという声があがった。

aizaraの人気ライン、スイッチプレート

電車が走るすぐ下で、こんな空間が広がっているとは。
一方、マジカルファーニチャーでは、木を中心とした家具づくりが行われている。
「いい素材で、いいものをつくり、長く使っていただく。」
その言葉の通り、家具だけでなく、壁面シェルフやドアなど空間そのものに関わる製作も数多く手掛けている。

高架下にある工房の様子。広い間口や天井高が工房としての活用にはまっている。
既製品では納まらない寸法や、少し複雑なディテール。設計者や工務店から寄せられる「こんなことはできるだろうか」という相談に対し、素材や構造を考えながら、一つひとつ形にしていく。

併設するギャラリーにて建具やプロダクトに囲まれながらお話を伺う。
今回訪ねた二つの工房には、もうひとつ共通点があった。
それは、どちらも灘の高架下に工房を構えていること。
電車が通り過ぎる音が響き、街と地続きの空気が流れる。工房にはギャラリーも併設され、ふらりと立ち寄れる距離で、素材と向き合いながらものづくりが続けられていた。

マジカルファーニチャーのギャラリーへ。
HOUSE for LOCALのメンバーによる家づくりは、工務店だけで完結するものではない。それぞれの地域で信頼を寄せるつくり手と協働しながら、一つひとつの住まいを形にしている。今回訪ねた二つの工房も、その家づくりを支える心強い存在であった。実際に工房で話を伺い、製作の様子を見ることで、素材への向き合い方や、一つひとつ形になるまでの過程に触れることができた。
完成した家の背景には、素材の個性を見極め、試作を重ね、長く使われることを前提に手を動かすつくり手がいる。今回の素材探訪は、そうした家づくりを支えるものづくりの現場をより深く知る機会となった。