自分達で木を育て、木を切り、すべて使い、良い循環をつくっていくということ。
HOUSE for LOCALに参加する工務店では、「ローカルの木を使う」ということを大切にしている。6社の工務店においてその定義はまちまちだが、一緒になって林業や木材製材に携わる事業者を訪問し、日々勉強や研究を行っている。今回は、丹波篠山市にある大市住宅産業さんの取引先でもある藤本林業所さんを訪問した様子をご紹介する。
丹波篠山市の城下町エリアから少し走ったところにある藤本林業所は、昭和27年に創業。約半世紀の間、主に林業、製材業を営んできた。林業と言えばスギ・ヒノキ(針葉樹)の利用が一般的だが、広葉樹の多様性を紹介し、50種類以上の広葉樹を集めた製材所を運営しておられるところが他の事業者と大きく違うところだ。藤本林業所では広葉樹の特性や利用方法を深く学ぶことができ、地域の人々にその重要性を啓蒙されている。
木材には大きく分けて針葉樹と広葉樹の二種類がある。広葉樹を活用することの意義を理解するには、針葉樹と広葉樹の違いとそれぞれの特徴、用途、メリットとデメリットを理解することが必要だ。
針葉樹(例:スギ、ヒノキ、マツなど)は一般的に成長が早く、軽くて加工しやすいという特徴がある。まっすぐに伸びるという特性から、針葉樹は建築材として広く利用されている。プレカット材としても利用できるため大規模な建築プロジェクトであっても工期が短縮でき、比較的安価で大量生産に向いている。デメリットとしては、強度や耐久性が広葉樹に比べて低い場合があることや、傷がつきやすいこと、見た目のバリエーションが少ないことなどが挙げられる。日本では高度経済成長期に木材を生産するために大量のスギ、ヒノキが植林されたが、その後安価な外国産の木材が入ってきて、そうした植林木の利活用が進んでいない現状がある。
一方で広葉樹にはどのような特徴があるのだろうか。広葉樹(例:カシ、ナラ、ケヤキなど)は成長が遅く、重くて硬いという特徴がある。そのため、家具や床材、特別な建築物の仕上げ材として利用されることが多い。多様な色調や木目があることでデザイン性が高く、耐久性にも優れていて、長寿命で、経年変化も楽しむこともできる。硬度が高いため傷がつきにくいというのも利点だ。反面、成長が遅いため供給量が限られており、重量があるため加工や輸送が大変だということから、価格は針葉樹よりも高くなりがちだ。
上記のような理由から、一般的な建物に使う樹木といえば、まっすぐで使いやすいスギ、ヒノキという印象が強い。しかし藤本林業所では特に広葉樹の活用に力を入れている。というのも、スギ、ヒノキが計画的に植林される前の日本の森は、針葉樹と広葉樹が多様に混ざった森であった。そうした日本の天然林の活用を促し、長期にわたって建築物に使っていくためには、広葉樹の汎用性を高めていくことが重要だ。つまり、日本の山に昔からある樹木の活用方法をしっかり考えていこうということだ。
また、建材にもっと広葉樹を利用することで、日本の建築物らしい独自の風合いや温かみを持たせることができる。そうした理由から藤本林業所の顧客は特殊木材を使う寺や公共施設が多い。そしてそれらのデザインを担う設計事務所や工務店とともに一点物のものづくりを協業で行うというケースもあるそうだ。西は名古屋から東は鳥取・島根までクライアントがいる。
藤本林業所には、自社の山から切り出した木材もあれば、丹波の木材市場で落札してくるものや、植木屋から引き受けるものもある。地元の資源を最大限に利用し、地域経済の活性化にも貢献したいという思いから入手ルートの門戸は広い。自社で製材して、加工、建築まで一貫して行う。これにより木材の品質管理とコスト削減を実現し、すべてのプロセスで木の有効活用ができる。
ストックしている木は、基本的に全部使い切る。ここでは、使えるものは建物の主要構造材や床材として使い、建具や家具を製造し、端材はこども用椅子や積み木などのおもちゃにして販売する。最後に木くずやカンナくずは薪として燃やす。つくった建物が取り壊される際には、潰すのではなく解体して材を再利用する。これはすべてのプロセスを一元的に行なっているからできるわけである。このように広葉樹を使いきることで、木材の多様性と品質を社会に提案し、地域の森の生態系に好循環をもたらしている。
藤本林業所の取り組みを象徴するプロジェクトは、龍蔵寺の再建だろう。1996年の大雨による土砂崩れで寺の僧堂が全壊。その寺を再建するプロジェクトに際して、寺が持っていた山に植わっていた600本の樹木を伐採して、その木々のみを使って3年かけて再建された。昭和初期以前は、近くの森から切り出した地元の木で家を建てるということは当たり前であったが、現代ではこうしたプロセスが完全になくなってしまった。その中でこれを実現させたことは大変珍しいし、貴重な事例でもある。このプロジェクトは、地元の資源を最大限に活用するという古来からの伝統的な建築手法を現代に復活させたものであり、針葉樹(スギ、ヒノキ)の美しさが存分に発揮されている。
藤本林業所代表の娘・理紗さんが主に関わっておられるのが、キノクラという木材の無人販売所だ。陶芸の窯元が集積する篠山の今田地区の中心部にこの店はある。藤本林業所の象徴である多様な木々の様々な部材、端材、加工品などが展示されていて、自由に見ることができ、購入できるようになっている。ちょっとした天板や、加工用の木材、木のおもちゃなども気軽に買うことができる。もちろんここにない本格的な取引が必要な場合は有人で対応していただけるが、まずは木に親しむという意味で、とても近寄り安い存在だ。
キノクラのインスタグラムをご覧いただければ、いかに多様な樹種があるのかわかっていただけるだろう。
藤本林業所では、地域社会との連携を重視し、地元住民と協力して森林資源の管理・活用を進めている。一言で言うと、地域の人が地域の木々を間伐するチームづくりを行なっている。この「里山会」では、山の登記書類と固定資産税台帳を調べ、活用可能性が高い山の所有者にコンタクトをとる。敷地内の木を切り出して良いという許可が出たら、里山会のメンバーでチェーンソーを持って行って間伐するという作業を請け負っている。
獣害対策、竹林害対策、草刈りのチームもある。30代から80代という幅広い年齢層の参加者が18名程度。補助金を活用して薪割り機を共同購入し、切り出した木は薪として近隣15分圏内の人に安価で販売している。そうした収益で里山会に参加した人たちにも若干だが日当を出して運営している。
実は移住者を増やすためのプロジェクトでもある。山を間伐して新しい宅地をつくり、そこに家を建てて移住してもらう。こうした活動により、この集落の人口は増えている。
HOUSE for LOCALのメンバーも参加していた里山住宅博の街区には、各世帯が持分を共有している法面や里山があり、住民たちによって自主管理されている。街区の計画当初は住宅購入者のうち3〜4名ぐらいが草刈機を持ってくれたら共有地も管理できるだろうと想定されていたが、今では20〜30名ぐらいがマイ草刈機を所有している。やはり地域で自治するコモンスペースと、そうした場所を自治し維持管理するスキルを住民が身につけることはとても大切だ。
このような取り組みにより、地域の自然環境を守り、次世代に豊かな森林資源を引き継ぐことが可能となる。
藤本林業所のようなレベルまで達していないが、私たちHOUSE for LOCALのメンバー工務店も、藤本林業所と近い思想を持っている。
(以下HOUSE for LOCAL冊子より転載)
そもそも、木造住宅に使用される木はどのように加工され、建築現場に届いているのか? たとえ「できる限り地元の木を使いたい」と考えたとしても、実際にそれはどの程度可能なのか?兵庫県や大阪府の工務店の集いであるHOUSE for LOCALとしてもできれば関西圏やそこから近い木材をご提案したいと考えています。しかし現状、価格だけで比較すると、九州のような木材の産地のものを使用したほうが結局はお手頃に仕上がるのが実情です。それでもできる限り、輸入材ではなく、国内産の木材で家をつくり、木の経年変化も楽しみながら愛着を持って家に住めるようにしたい、家を育てるように楽しみながら暮らしていただきたい。それが私たちの願いでもあります。
かつての木造家屋は、大工が柱や梁といった構造材を間取りに合わせて墨付けし、手加工で刻み、建て方・棟上げを行うことが主流でした。しかし、現在ではプレカット工場で、コンピュータ制御の機械により加工された構造材を使うことが一般的となっています。プレカットすることにより、手刻みに比べると作業時間を短縮し、効率化することが可能となるわけです。しかし、あくまで「自然素材」である材木1本1本の特性を最大限に活かし、機械ではできない複雑な加工をするためには職人ならではの仕事も欠かせません。
家づくりにおけるコストは当然、施主様にとって重要です。機械加工による合理化によってコストを抑えながら、機械ではできないようなそれぞれの住まい手のニーズに細やかに対応できる職人の仕事はできる限り継承し、残していきたいところです。
コストだけで見たら、むしろ自分たちの住まう地域から遠いところのものを使ったほうが安く仕上がる。しかも、なかなか自分たちの意志があろうとも国産材を指定して使うためには、私たち工務店はもちろんのこと、家を建てようとする住まい手ご自身にも勉強していただく必要がある。“でもまあ、目先の価格だけのことじゃないよね”ということにみんなが気付き始めている、“そうしないとこの先はもっとあかん”と思い始めている、というのが今といえるのかもしれません。だから“ちょっとがんばってでも、できるだけ地元の木を使っていってみよう。そうすることでこの先100年続くローカルのエコシステムを作り始められるはず”と、私たちは信じています。