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コストとこだわりのバランスを取る
ステンドグラス作家さんの家

工務店:大市住宅産業

京都府京丹波町のTさん宅。ステンドグラス作家をされるご夫婦と3人のお子さんがいらっしゃる5人家族です。敷地内に手作りの工房とギャラリーを構えて古民家で暮らしながら、新たに住居を建てられたのだとか。アーティスト一家のこだわりが詰め込まれたお宅にお邪魔しました。

家を建てようと思ったきっかけは?

奥さん(以下、妻)「元々は隣接する築60〜70年くらいの古民家に住んでいたんですが、いろいろ痛んでいるところもあって。リフォームも考えたんですけど、ステンドグラスのワークショップもできる家をつくりたくて新しく建てていただきました。」

旦那さん(以下、夫)「(古民家は)僕がまだ独身の時に住み始めた家だったので、当時は結婚するとも子どもが3人になるとも思っていなくて。もう狭いし、隙間風もすごいんです。だから、古民家の方は改造してギャラリーにして、大きな作品を展示する博物館みたいにしたいという妄想があります。敷地全体を使って『遊園地に住みたい』という夢を叶えたいというか。」

ご主人が独身時代に移住してこられたと伺いましたが、なぜ京丹波に?

夫「出身は静岡で、20年くらい東京のまちなかに住んでいたんですけど、ほのぼのしていて小さい山がポコポコあるような町に憧れていて。あと霧が出るところも好きなんです。京丹波には『常会』と言って、各家をすごろくみたいに回る習慣が残っているのも面白いですね。そういった地域の集会や行事に参加したくて来たようなところはあります。」

妻「がっつり楽しんでやらせてもらってるよね。消防団とか。」

京丹波には作家さんやアーティストさんが多いのでしょうか?

妻「結構多いですね。ご夫婦で大阪から移住されて来たりとか。木工や革細工、陶芸とか、夫婦でいろいろ作家活動をされている方は多いです。」

大市住宅産業に依頼されたのはなぜですか?

夫「大市さんのつくる家の雰囲気というか。デザインと技術と手間で素敵に見せるところがすごく好みだったんです。」

妻「自営業なのでなかなかローンが通らないし予算もないのに、大前さん(大市住宅産業代表)と初めてお会いした時から包み隠さず直球で接していただいたのが良くて。大市さんが建てる家の雰囲気と大前さんの人柄というところで決めましたね。最初に依頼した時から4年越しでやっと建てられたんですが、その間他のどの工務店にも行かず『ここ(大市住宅産業)がいい』ってずっと思っていました。」

どのような家を希望されましたか?

妻「『人が集まってくれる家』にしたいというのは昔から思っていましたね。靴を脱がずとも『どうぞお茶でも』と言える土間の雰囲気がすごく気に入っています。」

夫「外でだらだらしてなかなか家の中に入らないみたいな、そういう空間が好きで。玄関前のデッキとか軒が欲しいというのはお願いしていましたね。古い学校とか駅舎とかそういうレトロな感じの外観が好きなんです。」

大市住宅産業代表 大前さん(以下、敬称略)「玄関横に並ぶ窓には今後ステンドガラスをはめ込んでもらう予定なんですけど、外から見ると窓そのものがステンドグラスみたいに、分割されたガラスがいくつも組み合わさっているような形にしています。」

夫「窓が並んでいるのは、そういうイメージでリクエストしていましたね。そんな玄関前のポーチ感と、駄菓子屋の土間みたいに気楽に中へ入れるような感じが欲しかったんです。」

内装は木をそのまま見せたり、下地材のまま仕上げられているのがアクセントになっていますね。

大前「ここはどちらかというとコスト重視だったので、極力コストを抑えながらも最低限の性能は保てるようにということで考えました。例えば、床は無垢の杉板ですが節のあるものを使用しているので、節のない杉板に比べると安くなります。また、白い壁は一見すると漆喰に見えるんですが、実際は予算を抑えるために紙クロスの上に塗装する形で仕上がっています。一番安いのは新建材であるビニールクロスなんですが、それはあまり使いたくないので。だから『コスト、コスト』と言ってるんですけど、決して安い新建材を使っているわけではなくて、あくまで木材の選び方とか下地材をそのまま現しにするという方法でコストを下げられるように工夫しています。」

夫「それでも漆喰塗りへの憧れがどうしてもあって、一番目立つ玄関だけは塗ってもらったり。『どうしても変木を取り入れたい』とかね。ツボみたいなところは取り入れてもらいつつ、抜くところは抜くみたいな形で仕上げてもらいました。玄関周りはこだわってちょっと背伸びしたようなところもあるんですけど、洗練された感じになってよかったです。」

妻「お金をあまりかけられないのにわがままを言ったので、かなり工夫していただいて。大前さんにはすごく大変な思いをさせてしまいましたよね(笑)」

広い敷地に新築の住居と古民家、工房、ギャラリーが点在するTさん宅。家の中と外はどのように考えていますか?

妻「外も部屋、リビングとみなしています。将来、敷地の空いているところにおくどさんみたいな外台所を作りたいなとも思っています。建物をコンパクトに建ててもらった分、外も部屋として活用したりテントを張って過ごしたり。外も中も関係なしに生活したいなと思っています。」

夫「高低差というか起伏のある敷地で子どもが走り回るんですけど、これだけ登ったり降りたりしていればおもちゃがいらないというか。自然の遊具みたいになっていますね。」

コストとのバランスを取りながらも、Tさんご家族ならではのこだわりや思いが詰め込まれた家。京丹波の風土や環境、そして建物の全てをアトラクションのように楽しんで生活されているのが印象的でした。まだまだ「遊園地にしたい」という構想の途中。しばらく経ってから、またぜひ遊びに行きたいお宅です。

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